久しぶりに太陽を拝むことができたので、
独り者の休日の常として洗濯を行ったわけだ。
んで、干したわけだ。
物干しに通じる掃きだし窓のところにすだれを付けているのだけど、
それになんだか枯葉のようなものが付いていた。
ちょっと気になったのだけど、
虫の知らせ(おお、なんてこった)か
じっくり見なかった。
あとで恋人が来たとき、
その場所で煙草を吸っていたので
そこに何か付いてるけれど、何だろうね、と問うて見た。
「私の大っっっ嫌いなカマキリ(死骸)だった」
だいぶ泣いたりわめいたり
すだれごと捨ててくれ、もう引っ越すしかないと 大騒ぎしたら
恋人が割り箸でこそげとって捨ててくれた
(こびりついていたのだ。ああ、なんてこった)。
私がカマキリ嫌いになったのは、そう、去年の秋・・・。
その日、私は駅まで恋人を迎えに行った。
歩み寄ってきた恋人はいつになく笑顔で、
そして私にこう告げた。
「ねえ、肩にカマキリ付いてるよ」
そのときの私の心境を察していただけるだろうか。
東京に越してきてからカマキリなんて一度もお目にかからない。
その非日常な響きは私から思考能力を奪い去り、
その発話の意味を充分に解しないまま
私は自らの肩に目をやってしまった。
「いきなり至近距離でご対面(ご丁寧にこちらを向いていた)」
私は取って、取ってと叫びながら腕を振り回したのだが
腕の支点である肩についているカマは
一向に落ちない。当たり前だけれど、
その時はそんなことを考える余裕はなかった。
結局恋人がカマを払い落としてくれた。
話がこれで終われば私のカマカマ嫌いは
軽度で済んでいただろう。
恐慌状態も覚めやらぬまま、私は我が家にたどり着いた。
鍵を開けようと恋人に背中を見せた時、彼はこう言った。
「ねえ、またカマキリ付いてるよ」
そのときの私の心境をお察しいただけるだろうか。
絶対嘘だ と思ったのである。
もー、恋人ったら私をびっくりさせようとして
見え透いた嘘ついちゃって、おちゃめさん!と思ったのである。
いったい誰が私を嘲笑うであろうか、あの憎いカマの他には!
「払い落とされた衝撃で腹膜がね、腹膜が”くしゃっ”て!”くしゃっ”て!!」
こうして私のカマ嫌いは決定的なものとなったのである。
この後数日間は完全に錯乱状態で、
「服に卵を産み付けられたんだ!カマキリは卵の状態で越冬するぅぅぅぅ!!」
だの
「あれですよ、カルチャークラブの『かーまかまかまかま』っていう歌、
あれを歌ったからカマを呼んでしまったのですよ 」
だの
「おんもにはカマカマがいるから行きたくないよう」
だの 訳の分からないメールを恋人に送り続けたことを
最後に告白しておく。
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